暖かい布団に包まる。引きはがされたそれを取り返して溜息を聞くと、また繰り返し引きはがされた。
 朝日が目に眩しい。カーテン越しにも分かる暖かな春の陽気に、眠気が途絶えることがなかった。相対して、まだ外気は冷たく、冬が名残惜しげに留まっている。
「おはよう」
 刺のある言葉の端々に、眉間の皺が寄る。そうしたいのはどっちだ、と言わんばかりに顰めっ面を見せる臨也を、強引にベッドへ引き込んだ。軽い音を立てて倒れた臨也と布団を抱き寄せると、冷えてしまっているのか、掌に外気と同程度の温度が伝わる。腕の中に収まる臨也は、ベッドの冷たさに一瞬だけ震えたが、俺の体温が温かいからか、自ら出て行こうとしない。
「そうやってすぐ怠けるからシズちゃんは……俺は休日だからっていってもやることが山積みなのに……」
 口を開く度にそうやってごねるが、言っていることとやっていることが違う。説得力に欠ける行動を取る臨也のうるさい口を止めるためにどうしようか、と悩んだ末に、口元に小さくキスを贈った。思惑通りに黙り込んだが、我ながら恥ずかしいことをしてしまったと赤面する。苦し紛れに、布団の中、暗くて見えもしない臨也の顔を赤いぞ、とからかえば、一度蹴りを喰らう。更に深く潜り込んだ臨也だったが、今度は暑かったのか顔を出して乱れた髪を手櫛で整えた。
「シズちゃんの体温高すぎでしょ。子供体温だったりするの?」
 さりげなく握られた手から伝わる指先の冷たさに、これは俺が高い体温でなくとも全て温かすぎると感じるだろうに、と優しく握り返す。口を開いては喋り、中々眠ろうとしない臨也の言葉が、次第に子守唄のように聞こえてきた。
 いい加減に眠らせて欲しくて「おやすみ」と細い体を抱きしめる。震えた体からは暫く返事が無くて、まどろみの中に意識が消えていく寸前、小さく返された「おやすみ」の声。そういえば、ちゃんと、おやすみもおはようも、こいつの口からは伝えられたことがなかったなあ。些細ではあるものの、確かな安寧を共有できているのだと、瞑る瞼の奥の奥、心臓に程近い場所に温もりを覚えて、ほんの一瞬、瞼を上げる。目に映った震える睫毛には、優しい雨のような雫が、大きな粒を作っていた。


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